Denture sabilizer
「入れ歯安定剤を使用してはダメですか?」と患者さんからよく聞かれます。入れ歯安定剤を長期間使用することにより、様々なデメリットがあります。入れ歯安定剤というものは、痛い部分やゆるくなってしまった部分を応急的に使用するなら問題ないと思いますが、日常的に入れ歯安定剤を使用するとなると問題があります。入れ歯安定剤がないと動いたり落ちたりする時点で、合っていない入れ歯なので、治せる歯科医院に行くことをお勧めします。
下に入れ歯安定剤を使用した際のデメリットをあげます。
1、咬み合わせが高くなってしまう。(入れ歯安定剤をいくら薄く広げてもなかなか入れ歯が均一な高さになるように調整するのは難しいものがあり、かえって粘膜面をを傷つけてしまう恐れがある。)
2、入れ歯の痛み・不安定のほとんどは、咬み合わせによるものが多く、入れ歯の内面を安定させても根本の解決には至らない。
3、入れ歯安定剤がないと痛くて使用できなくなってしまう。
4、入れ歯安定剤を毎日、菌が繁殖するためにきれいにはがさなければならない。
5、長期的に考えると入れ歯安定剤の使用により、顎の骨が吸収する可能性がある。
6、入れ歯の内面に問題があったとしても、患者さん自身が入れ歯安定剤により解決することは非常に難しい。
上記の理由により、入れ歯安定剤の使用は極力避けた方が良いという事になりますが、患者さんによっては、応急処置的に使用する場合もありますので説明したいと思います。
入れ歯安定剤の使用方法
入れ歯安定剤を使用する際は、極力少なく使用しましょう。痛い部分に少量使用してできるだけ咬み合せが浮かないように薄くのばす必要があります。厚くなってしまうとその部分を支点にして、シーソーしますので薄くのばして使用しましょう。痛い部分がある時は、歯科医院にすぐ予約を取るようにしましょう。
下記に歯科医師雑誌に掲載された内容を記載しますので参考にしてみて下さい。
市販の義歯安定剤と使用状況
広島大学歯学部歯学科 口腔機能修復学講座 濱田泰三先生
★義歯(入れ歯)と義歯(入れ歯)安定剤
日本には木床義歯(入れ歯)という世界に誇る伝統があり、200~300年前の時代には日本の補綴技術は世界一でした。その時代にも義歯(入れ歯)安定剤に似たものを使っていたわけです。床下に和紙や羽二重を敷いたり、綿花を入れるといった民間療法です。以後、一般社会の認識では義歯(入れ歯)と義歯(入れ歯)安定剤は切っても切れない関係にあり、市場も拡大してきました。そして、いまや義歯(入れ歯)安定剤の年間販売総額は80億ともいわれています。この現実に歯科医は真剣に向き合う必要があると考えます。
この義歯(入れ歯)安定剤の功罪について考える場合には、まず患者がなぜ義歯安定剤を使うのかを良く考えなければいけないわけですが、結局のところ「義歯(入れ歯)が不安定だから」ということになります。本来、義歯(入れ歯)による咀嚼時の疼痛や維持安定の不良に対しては歯科医の適切な処置が必要になるわけですが、安価で手軽に入手できる市販の義歯(入れ歯)安定剤で患者自身が床下の調整を行い、「義歯への不満」を解消しているという現状があります。一般にこうした患者自身による義歯(入れ歯)安定剤の応用は"home dentistry"と呼ばれています。歯科医の多くはこの義歯(入れ歯)安定剤に対して問題意識をもち、理解を示していませんでした。しかし、近年、義歯(入れ歯)安定剤の有効性が報告されるようになり、歯科医として正しい使い方を患者に指導する必要があると考えます。
★義歯(入れ歯)安定剤の分類
義歯(入れ歯)安定剤は粘着作用により義歯(入れ歯)を維持、安定させる義歯(入れ歯)粘着剤と床下の隙間を埋めて密着作用を高めることにより辺縁封鎖効果を期待するホームリライナーの2つに分類されます。(表1、図1)
義歯(入れ歯)粘着剤は粉末タイプ、クリームタイプ、シールタイプなどの製品形状で、いずれも粘膜への粘着性に優れた吸水性ポリマーやカラヤゴム、アラビヤゴムなどの高粘着性物質が主成分です(表2)。粉末タイプは唾液などの水分に触れると吸水し、粘着作用を示しますが、口腔内では流されやすく耐水性に劣ります。クリームタイプは粘着成分を軟膏基材でクリーム化したもので、粉末タイプに比べて唾液に流されることも少なく、耐久性は若干優れます。また、必要な部位に必要なだけ裏装することができるために操作性にも優れます。シールタイプも主成分はクリームタイプのものとほとんど同様で、リボン状あるいは義歯形態に類似した形状になっています。しかし、製品自体に厚みがあるため口腔粘膜になじみにくいという欠点があります。
一方、ホームリライナーはクッションタイプであり、酢酸ビニル樹脂と溶剤であるエタノールを主成分にしています。また、チューブからの押し出し性を改善するためにポリプロビレングリコールが剥離材として配合されています。ホームリナイナーは床下の隙間を埋めるだけではなく、辺縁封鎖効果を高めることにより義歯(入れ歯)の吸着を改善するものです。また、その粘弾性的な性質により咬合圧を分散し、局所的圧痛点を減少させます、つまり、傷ついた粘膜を一時的に保護するためには効果がありますのが、患者自身が床下に均等に裏装するのは難しく、咬合関係を変化させてしまう可能性があります。
★義歯(入れ歯)安定剤の問題点
義歯(入れ歯)安定剤の"home dentistry"としての問題点は、安易に使用して、汚れによる為害性を過少評価したり、咬合高径が高くなったり、膨潤により過圧部が生じて骨吸収を促進することなどが挙げられます。海外では義歯安定剤の長期使用により、著名な骨吸収を認めた症例が報告されていますが(図2)、わが国ではその使用が否定的であったため、長期使用による追跡調査報告がほとんどみられません。しかし、現実に患者の関心が高まっている以上、患者に対する適切な指導という点で、義歯(入れ歯)安定剤の正しい理解がなく使用した場合の著しい骨吸収を念頭におく必要があります。
一方では、多くの報告が義歯(入れ歯)安定剤の使用に否定的であったときに、Ulingは義歯(入れ歯)安定剤のうち粘性を増加させるタイプの使用により、床下介在唾液の粘性を増し、その結果、義歯(入れ歯)の維持力を増加させることは科学的であると論じています(図3)。ほかにも義歯(入れ歯)の咀嚼能力。維持力の向上、動揺の減少、床下への食片迷入の減少などの報告もみられます。
われわれも数種の義歯(入れ歯)安定剤を患者に使用してみたところ、不満のない義歯(入れ歯)の場合、維持力の向上は認めるが、咀嚼能力はとくに向上したとは思えず、異物感を訴える患者もいました。一方、不満足な義歯(入れ歯)の場合、義歯の安定、咀嚼能力の向上など、義歯安定剤の効果が認められました。
義歯床下組織が変化していくことは避けられませんが、不適切な義歯(入れ歯)を我慢してそのまま放置していれば、その不都合は避けがたい老化による変化以上になってしまいます。したがって、定期的に義歯と顎堤などの診査するために歯科医院を受診すれば、著しい不都合はないものと思われます。しかし、本来適切な義歯(入れ歯)適切な使用があれば、このような補助材料の必要性は少ないことを十分理解したうえで、かつ患者がこれらを使用している現実に目を向ける必要があります。
★現在市販されている義歯(入れ歯)安定剤
現在、国内で市販されているおもな義歯安定剤を表3に示します。製品形状としては、前述のとおり、クリームタイプ、粉末タイプ、テープタイプ、クッションタイプがおもなものですが、海外では液状の製品もあります。製品にはさまざまなバリエーションがあり、同一製品で内容量を変化させたもの、色調を変化させたもの、形態を変化させているものなどがあります。
★義歯安定剤の評価と使用による弊害
義歯安定剤を評価する場合には、患者が義歯に盛る操作性が重要なポイントになりますが、これには各製品の粘度が大きく影響してきます。しかし、製品間では粘度に大きな違いが認められます。すなわち、クリームタイプと粉末タイプは、クッションタイプとテープタイプに比べて高い流動性を示し、患者が使用する操作性に優れています。
また、義歯安定剤を義歯粘膜面に裏装する際、咬合高径や中心咬合位などを変化させないようにするために、流動性が高く、層が薄くなることが必要で、この観点からするとクリームタイプと粉末タイプが望ましいと思われます。クッションタイプは流動性が低いため、患者自身が床面に均等に広げるのは難しく、咬合関係の変化による咬合干渉や顎堤の骨吸収を助長させる可能性があります。
義歯安定剤の義歯床や口腔粘膜への接着性、すなわち除去のしやすさも重要な要因になります。
クッションタイプは酢酸ビニル樹脂を主成分としているため、義歯床の主成分であるポリメチルメタクリレートと親和性が高く、義歯床から除去しにくいという欠点があります(図4)。そのため短期間での張り替えを妨げ、汚染された環境が継続しやすくなります。しかし、このタイプは口腔粘膜への付着が少ない。逆に義歯粘着剤はティッシュペーパーなどで義歯床から容易に除去できますが、口腔粘膜からの除去は非常に困難です(図5)。
患者の使用感では、順次溶出していくタイプは味覚に影響を与えたり、口腔粘膜に付着して取り除くのに苦労するものもあります。また、口腔内環境の酸性化も懸念材料です。粉末タイプは唾液などの水分に触れると吸水し粘着作用を示しますが、口腔内では流されやすく耐久性に劣ります。クリームタイプは粉末タイプに比べて唾液に唾液に流されることも少なく、耐久性も若干よいと思われます。
なお、義歯粘着剤の成分の一部は唾液とともに消化器系に取り込まれますが、連用したとしても害はないと思われます。ただし、カラヤゴムを含用する酸性の義歯安定剤に関しては、エナメル質の脱灰やアレルギーの報告もあり、その他の弊害の可能性も否定できません。
また、義歯粘着剤は義歯の顎堤に対する位置関係をほとんど変化させないため、会話などの機能運動に影響を与えにくい反面、口蓋の唾液腺開口部を閉鎖させる可能性があります。
最後に清掃方法について触れておきます。義歯床から義歯安定剤を除去するにはガーゼや綿棒を使用したり、流水下にブラシを使用して清掃するのが一般的です。また、義歯洗浄剤を用いれば義歯安定剤はほとんど溶解しますが、ホームリライナーのようなクッションタイプは溶解せず、義歯洗浄剤は効果がありません(図6)。しかし、食後の清掃に関しては容易で、辺縁からのはみ出しも少なく、味覚などに影響を与えにくいと考えます。
 




